近時新聞 特別号 2018年3月15日発行 A4 16P 冊子版

近時新聞 特別号 2018年3月15日発行 A4 16P

〇越行の記 林市郎右衛門を追う
 赤尾 博章(特定非営利活動法人 京都龍馬会 理事長)

平成26年12月1日発行「近時新聞第20号」から平成30年3月15日発行「近時新聞第31号」に掲載したものをまとめた。以下冒頭一部を掲載。

 2014年4月12日(土)午後8時 NHK総合「突撃!アッとホーム 坂本龍馬直筆の『越行の記』を新発見」が放送された。この手紙『越行の記』は、番組の取材中、東京都の一般家庭で偶然発見されたものとのこと。近時新聞にご執筆戴いている、京都国立博物館宮川禎一先生をはじめ高田祐介先生、山口県立長府博物館古城春樹先生などが出演されていた。「坂本龍馬の書簡で間違いないと思います。これが21世紀のこの時代に現れるというのは、奇跡のようなものですね。大発見と言っていいと思います!」と、宮川先生。
 この情報は我々龍馬ファンの間でも大いに話題となった。宮川先生から「越行の記」の写真を見せて戴いたときに、よく見ると冒頭部分の裏側に文字が書かれているのに気付いたが、表装されているうえに写真でははっきり確認することができなかった。「河原町」「林市郎」などの文字がうっすら見えたがその意味は不明。これが後の大発見につながるとはその時にはだれも予測ができなかった。
 その後「越行の記」は高知県立坂本龍馬記念館に寄託され一般公開された。現物を見に行きたいとは思うが高知はちょっと遠い。9月に福井県立歴史博物館で展示されることになったのでこれに行くことにした。
 9月20日京都龍馬会主催京都幕末祭『幕末歴史本気トーク』では宮川先生にもご出演戴き、「越行の記」の裏側に書かれている文字が龍馬の字であることがわかったとのお話をされた。当日塩津へ調査に行かれ「林」家が何軒かあることも確認されたとのこと。

 9月25日高知新聞で次の報道
『坂本龍馬の書簡は裏も直筆か 高知県立記念館などが調査
 ことし2月に存在が分かり、坂本龍馬直筆の新史料として注目を集めた書簡について、高知県立坂本龍馬記念館(高知市浦戸)は24日までに、裏面の文字も龍馬が書いた可能性が高いことを確認した。内容は不明な点が多く、高知県立坂本龍馬記念館などが引き続き調査している。
 書簡は土佐藩参政の後藤象二郎宛てで、「越行の記」との表題で龍馬が福井藩士の三岡八郎(後の由利公正)と談論したことなどを報告している。NHKのテレビ番組の取材過程で見つかり、高知県立坂本龍馬記念館に寄託された。専門家は大政奉還後で暗殺される直前の1867年11月、龍馬が下書きや控えとして書いたものとみている。
 巻物に表装されているため、書簡の裏面は直接見られないが、高知県立坂本龍馬記念館は表面に透けて見える文字を反転して解読。「当年/百本/大よふ」「河原町四條(条)上ル/米や町菊や安兵衛」などと書かれ、下端に「林市郎右衛門」とある。
 高知県立坂本龍馬記念館の三浦夏樹・主任学芸員らは当初、この「林」が裏面の筆者と考えていたが、現在書簡を貸し出している福井県立歴史博物館(福井市)から指摘を受けて高知県立坂本龍馬記念館担当者や京都国立博物館の宮川禎一・学芸部企画室長らと調べ直すと、複数箇所が龍馬の筆跡と酷似していた。
 本文の「菊や」は京都の土佐藩邸出入りの書店で、「安兵衛」は書店店主の親族で志士とも交流があった鹿野安兵衛とみられる。「林」は不明だが、すぐ上に「塩津(現在の滋賀県長浜市)宿」とあることから、三浦主任学芸員は「塩津とゆかりがある人物ではないか。塩津は水上交通の拠点だったため、福井と京都を行き来する際、龍馬は船で琵琶湖を渡ったと考えられる」と話している。』

 「菊や安兵衛」は龍馬にとって重要な人物の一人であることはわかるが、「林市郎右衛門」とは何者なのか。初めて聞く名前である。
 9月29日 福井県立歴史博物館に龍馬の手紙「越行の記」を見に行く。途中、塩津にも寄らなくてはならない。
 琵琶湖の北端に位置する入江で日本海側と琵琶湖をつなぐ交通の要衝であった。塩津の西「大浦」に「北淡海・丸子船の館」があることを東京龍馬会の皆川真理子さんから聞いていたので訪れることにする。大浦は偶然私の先祖が廻船業を営んでいた場所でもある。行く前に電話で歴史に詳しい方を紹介してほしいと伝えておいたところ、地元観光協会の大田久左ヱ門氏にお越しいただいた。
 新発見の龍馬の手紙について聞きたいといきさつを説明し「林市郎右衛門」を探していると云ったところそばで話を聞かれていた受付の女性が「それ、うちの先祖です!」と一声。鳥肌!名札を見ると「林由利」さん。
 お墓には「林市郎」と書かれたものがあるという。おうちは塩津で代々宿屋を営んでいたとの事。いきなりなんということか。・・・・・


 赤尾 博章(あかお ひろあき)
特定非営利活動法人 京都龍馬会 理事長。「近江屋」のすぐそばに生まれ育つ。土佐藩邸跡立誠小学校卒、甲南大学卒業後商社勤務を経て家業の古書籍業に従事。1993年京都龍馬会設立。現職、酒場「龍馬」著書『図説 坂本龍馬』2005戎光祥出版。「京都における龍馬と妻お龍」『日本主義』 2008年冬号 白陽社。『龍馬・新撰組が駆けた幕末京都めぐり地図』2009年 ユニプラン。『維新の胎動 幕末年表帖』2009年 ユニプラン。『龍馬伝 幕末地図本』2009年 ユニプラン。『京都の龍馬とおりょう』2015年 龍馬カンパニー。『昭和の京都』2016年 いき出版
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